2012/01/13

Cinema Review:『チェイサー』



『チェイサー』(2008) imdb 予告編

2011/01/13 先日観た『哀しき獣』つながりで、DVDにて復習。同じ監督の作品で、メインキャストの二人も同じです。二つの作品で二人の役者の役柄が入れ替わってるのがおもしろいですね。ずいぶん雰囲気が違ったからわからなかったわ。

『チェイサー』追う男キム・ユンソク
『哀しき獣』追われる男キム・ユンソク

『チェイサー』追われる男ハ・ジョンウ
『哀しき獣』追う男ハ・ジョンウ

 【あらすじ】
デリヘル嬢が相次いで行方不明になっている。すでに彼女たちに手付金を支払った経営者ジュンホはたまったものではない。調べてみると、みな同じ男に呼び出されてから連絡がつかなくなっていることがわかる。今夜もまた、彼のもとに嬢を送ったばかりだった。ジュンホは元警官の勘をもとにひとり事件を追い始める…


【感想】 
『チェイサー』という題(原題はズバリ『追跡者』) なのにかなり早い段階で犯人がアッサリ捕まるので肩透かしを食らう。一度は尻尾を掴んだ殺人犯をみすみす逃がしてしまう警察組織の腐敗、最悪のタイミングの積み重ねといった不条理と戦う男を描いた作品。犯人は根っからのサイコパスで、甥っ子に手を出したこともあるマジキチ男。刑務所あがりのインポのクリスチャンで絵がうまいです。だからレイプしないで即殺しちゃうんだね。毎回自分の携帯(通称サーパルパルオ=4885)でデリヘル呼んでるので簡単に足がつくし、別に逃げてるわけでもないんだけど、どういうわけか何度も釈放されてしまうラッキーガイ。警察がアテにならないのでジュンホが自ら動くのですが、元警官現デリヘル経営者が署に入り浸っていていいの?殺人犯が事務所に婦警と二人きりになって軽くちょっかいを出したり、上司が来るまでの取調べもお粗末なもの。「先輩!ちょっと来てください!これ血ですよ!」「ペロッ…これは…バカヤロ!こりゃキムチの汁だよ!」なんてコリアンジョークもあり。だから警察が腐敗しているって話なんですが。同じく警察の無能さと運の悪さ、不条理を描いた作品に『殺人の追憶』(2003)があります。こちらもおそろしいほどの傑作。


『チェイサー』の監督の最新作、ということでかなり『哀しき獣』のハードルがあがっていたようで、「『チェイサー』のほうがよかった」なんて声も聞きますが、たしかに『チェイサー』のほうがシンプルではある。『哀しき獣』は登場人物が多くて、それぞれがやりたい放題して、その災いを主人公がわけもわからぬまま全て被っていく受難の物語。途中で頭がこんがらがる感じは、わたしは嫌いじゃないです。それでいてあの静かに余韻を残すラスト。オチのつけ方は『哀しき獣』のほうが断然よかった。『チェイサー』のほか『アジョシ』なんかもそうだけど、男が戦う理由って女と子供しかないのかなー。ジュンホは元警官の意地っていうのもあるけど、被害者ミジンの娘の存在がかなり大きな原動力になっている様子。男を戦士に変える幼女のパワーはすごい。『哀しき獣』はもとは女子供のために走りだすんだけど、走っている途中でもう自分が何のために誰と戦っているのかわからなくなるガムシャラ感がよかった。うーん、やっぱり『哀しき獣』が好きだ。


ところで、『チェイサー』最後の一騎打ちでの生首ゴロゴロはクドイのでやめてほしい。畳に染み込んだ黒い血で深くため息をついた後にあれが出てきて興ざめしてしまった。『悪魔を見た』でも生首ゴロゴロあったなあ。どうもああいうのは笑っちゃう。わかった、『溶解人間』のせいだ!